こんにちは、ソラです。
今回は2024年1月29日に公開された豊田自動織機「認証不正問題」の報告書について解説してみたいと思います。
自動運転とは関係ない話題ではありますが、個人的に気になったのと自動車関係の勉強もかねてやってみたいと思います。
Ⅰ調査に至る経緯と調査の概要
第1 調査に至る経緯
2020年後半、豊田自動織機は米国EPA(環境保護庁)に対し、米国市場向けのフォークリフトなどに使用されるガソリン・LPG(液化石油ガス)エンジンの2021年次認証申請を行いました。
米国の制度上、車両の排出ガス性能に関する認証申請が毎年必要とされています。
ですが仕様変更がない場合には、最初の申請時または最近のモデルチェンジ時に提出した排気対策装置の「劣化係数」を再提出することで済みます。豊田自動織機も、このルールに従って過去の劣化係数を提出していました。
ところが、EPAは過去に提出された劣化係数の算出に用いた劣化耐久試験のデータや試験方法にいくつかの疑問が浮上し、EPAは豊田自動織機へ問い合わせを行いました。
これを受け、豊田自動織機は外部弁護士に調査を依頼。
最初は米国市場向けのガソリン・LPGエンジンに関する調査からスタートしましたが、その後、調査は日本市場向けのガソリン・LPGエンジン、さらにはアメリカと日本市場向けの産業車両用ディーゼルエンジンにも広がっていきました。
外部の弁護士が調べた結果、日本市場向け産業車両用のディーゼルエンジンとガソリン・LPGエンジンが、国内法規に違反する可能性があるとわかりました。
内容は、
- 日本市場向け産業車両用ディーゼルエンジンである「1KDエンジン」及び「1ZSエンジン」の劣化耐久試験において、排出ガスの各成分の実測値を使用せずに推定値を使用して劣化補正値を算出した。
- 上記エンジンの試験で求められるエンジンの運転条件をエンジンの制御ソフトの一部を変更することにより成立させた。
- 日本市場向け産業車両用ガソリン・LPG エンジンである「4Yエンジン」の劣化耐久試験において、試験中に部品の交換を行うとともに、劣化補正値を算出する際に排出ガスの各成分の実測値を使用しなかった
というものです。
これを受けて、豊田自動織機は2023年3月17日、上記の国内法規に違反する可能性がある行為が確認されたことを公表するとともに、事案の全容解明及び真因分析、並びにこれらに基づく再発防止策の取りまとめに向け、豊田自動織機と利害関係のない独立した外部有識者による特別調査委員会を設置しました。
第2 調査体制
豊田自動織機が設置した特別調査委員会の構成メンバーについて
委員長に井上宏弁護士、ヤマハ発動機株式会社顧問の島本誠氏、松山遙弁護士の3名。
そして調査をサポートするために、西村あさひ法律事務所・外国法共同事業から平尾覚弁護士を含む12名の弁護士が補助にあたっています。
委員長の井上宏弁護士。彼は公認不正検査士でもあり、元福岡高等検察庁検事長の経歴を持ちます。
また、弁護士以外にも三井金属鉱業株式会社の社外監査役やマツダの取締役監査等委員もなされているようですね。
島本誠氏はヤマハ発動機株式会社の顧問で、1983年4月にヤマハ発動機に入社後、エンジン設計部長やPF車両開発統括部長などを経験されていて、このメンバーの中では自動車開発に深い理解を持つ人物です。
松山遙弁護士は企業不祥事対応をはじめとした企業法務を中心にご活躍されているみたいです。
東京海上ホールディングスや三菱電機などの社外役員や、明治製菓、フマキラーなどの委員会などを複数兼任しており、
ライブドア対ニッポン放送事件をはじめとした訴訟や不正調査・ガバナンス検証など多くの実績をお持ちです。
自動車関連で言えば2021年12月22日に公表された日立Astemoのサスペンション構成部品の不正に関する調査委員メンバーもされておりました。
また、2023年は今回の豊田自動織機の不正以外にも、デンカと日本風力開発の外部調査委員会の委員もなされているみたいです。
すごく忙しそうですね…
調査をサポートする西村あさひ法律事務所は五大法律事務所の1つで650名弱の弁護士が所属している国内最大手の法律事務所で、国内には東京を含めて5か所の拠点を構えるほか、アジアを中心に海外展開も進め、全世界には計20か所の拠点がありますね。
第3 調査範囲
この特別調査委員会が豊田自動織機から依頼された調査範囲は、
当委員会が豊田自動織機から委嘱を受けた調査範囲は、豊田自動織機が開発・生産するエンジンについての国内の排出ガス認証に関わる不正行為の有無・内容、その真因の分析及び再発防止策の提言です。
要するに、豊田自動織機が作ってる産業用エンジンに関して、
- 日本の排出ガスの認証に関わる不正があったかどうか
- もし不正があったとしたらそれはどんなものか
- その原因は何なのかを調べ上げること
- 不正が二度と起こらないようにするためのアドバイスや対策を考える
- 調査対象は第二次規制以降に認証を受けたエンジンすべて
ってことですね。
その一方、以下2点については調査の対象範囲外になっています。
- 米国および欧州で行われた不正行為
- 排ガス規制を満たしているかどうか
まず米国および欧州で行われた不正行為については、米国及び欧州の排出ガス認証に関しては、委員会の調査に先行あるいは並行して、海外当局による調査や海外当局に対する自主報告等が実施されていて、豊田自動織機が各国で雇ってる代理人弁護士たちが、もう対応してるからですね。
この状況で、特別調査委員会がわざわざ改めて米国や欧州の排出ガス認証に関する事実関係を調べて、その結果を公にするとは、各国の法律に基づいて動いてる当局の調査とかに影響が出る可能性があります。
なので、委員会はその辺りの調査は控えることにしたってことですね。
もっとも、米国及び欧州の排出ガス認証を前提として国内の排出ガス認証を取得している例もあったので、そのような場合には、米国及び欧州の排出ガス認証についても国内の排出ガス認証に関わる範囲で必要な調査を行いました。
排ガス規制を満たしているかどうかについては、そもそも調査対象外だからですね。
もう少し詳しく言いますと、そもそも特別調査委員会が設立された理由はあくまで「不正が起きた原因の調査と再発防止」です。
つまりエンジンが排出ガスの規制値を満たしていないのに、その事実が認証申請の時や量産の段階で見つからなかったのかを調べるために、技術的な原因を分析することになります。
さらに付け加えると、この分析のもとになってるのは、豊田自動織機が不正発覚後に行った劣化耐久試験の結果であり、特別調査委員会がその検証作業の正確さや信頼性を確かめたわけでは無いってことにもなりますね。
この点はちょっと注意が必要ですね。
そして産業用エンジンのみならず、自動車用エンジンでも不正が見つかっています。
豊田自動織機では、トヨタ自動車向けの自動車用エンジンの開発や生産も手掛けている為、特別調査委員会は自動車用エンジンに関しても、国内の排出ガス認証に関する不正がないかどうかも調査対象になりました。
自動車用エンジンの場合は、トヨタ自動車が劣化耐久試験を行ってから自動車型式指定を取得していて、豊田自動織機はその劣化耐久試験を含む排出ガス認証の試験を実施していませんでした。
ですが、調査をしているうちに、トヨタ自動車が車の型式指定を受けるために提出する諸元表に載せる最高出力の数字の一部を、豊田自動織機で測定していたことが判明。
具体的には最高出力値の計測時に燃料噴射量が変更されていた例が見つかりました。
そのため、特別調査委員会は豊田自動織機が諸元表に記載する最高出力値を計測したエンジンのうち、現在も豊田自動織機で生産されているエンジンを対象に、燃料噴射量の変更等の不正行為が行われていないか確認しました。
また、自動車の型式指定で諸元表に記載される項目の中で、豊田自動織機が実際に計測を行っているのは最高出力値だけで、それ以外の項目については豊田自動織機が計測を行うことはないことが確認されました。
第4 調査概要
1 関係資料の収集及び精査
特別調査委員会は、豊田自動織機が製造する国内向けの産業車両用エンジンと自動車用エンジンに関する資料を集め、詳細に調べました。これらの資料には、組織図、社内規則、会議の記録、排出ガス性能データ、認証申請書類、品質保証や管理の体制についての情報などが含まれています。
また、この調査では、西村あさひ法律事務所の弁護士が委員会設立前に事実関係を一部調べ、収した資料や行ったヒアリングの内容を委員会へと引き継ぎました。また、それまでに得られた調査結果の概要も共有されました。委員会は、これらの情報も関係資料として精査し、不正があったか、その原因は何かを分析しました。
2 関係者に対するヒアリング及びフォレンジック調査
(1) ヒアリング
特別調査委員会は、2023年3月17日以降、豊田自動織機の関係者計72名に対してヒアリング(書面による質疑応答を含む)を行いました。ヒアリングの対象者は以下の通りです:
豊田自動織機の役員(退任した人物も含む):6名
豊田自動織機エンジン事業部の従業員:53名
豊田自動織機トヨタL&Fカンパニーの従業員:11名
豊田自動織機本社機能の従業員:2名
(2) フォレンジック調査
フォレンジック調査とは、不正行為や情報漏洩などの問題が発生した際に、その原因を特定して証拠を確保するための詳細な調査手法です。
フォレンジック(forensic)とは「法廷の」や「法医学の」、「法的に有効な」といった意味の英語で、もともとは、主に警察の犯罪捜査で行われる鑑識調査や法的証拠を見つけるための捜査のことを指し、証拠を収集・解析する調査を意味していました。
豊田自動織機による委託を受けた外部弁護士が、米国向け産業車両用ガソリン・LPGエンジンおよびディーゼルエンジンに関する調査を行いました。この調査の一環として、彼らは関係する役職員が使用するPC(全26台)や、メール、ファイルサーバーに保存されたデータの保全に取り組みました。
これは特別調査委員会の調査前に行われたみたいです。
委員会は、これらの保全されたデータのうち、国内向け産業車両用エンジンの開発に携わった35名の役職員のデータに対し、キーワードを用いた検索などを通じて詳細なデータレビューを実施しました。
また、調査の過程で自動車用エンジンの最高出力値の計測における不正行為が明らかになり、自動車用エンジンの開発に関わる3名の役職員のデータも追加で保全したうえで、データレビューを実施しました。
3 通報窓口の開設
2023年3月31日、特別調査委員会は、通報受付用の電子メールアドレスを開設し、その日の時点で豊田自動織機エンジン事業部およびトヨタL&Fカンパニーに所属していた全従業員にこの新設された通報窓口を周知しました。この取り組みにより、合計52件の通報が寄せられ、委員会はこれらの通報内容に基づいて調査を行いました。
4 豊田自動織機実施のアンケート回答の精査
豊田自動織機は、特別調査委員会の設置以前から、定期的または随時コンプライアンスや品質に関するアンケートを実施してきました。
具体的には次の4種類のアンケートです。
- 品質意識調査
- 従業員コンプライアンス意識調査
- 従業員意識調査
- 業務リスク調査アンケート
特別調査委員会は、豊田自動織機から過去の調査結果および関連資料の提供を受け、内容を精査。その結果を踏まえて必要な調査を実施しました。
一応、各種アンケートについて補足しておきますと、
品質意識調査は、品質統括部が 2015年から2018年までに実施したアンケート調査です。
目的は全社の品質意識の現状を把握して、全社・事業部の品質意識向上活動に活用することと、回答を通して品質向上において各人が求められる行動を理解することで、全従業員を対象に、品質意識調査を実施しています。
従業員コンプライアンス意識調査は、2018年からコンプライアンス分科会が開始したアンケートです。
この分科会は、豊田自動織機の社長直下にあるCSR委員会の一部で、事業部や関連会社を含む広い範囲でのコンプライアンス活動を推進する目的で設立されました。
この調査は、従業員から無作為に抽出した約1400名を対象に、コンプライアンスの意識向上や徹底のための施策が効果的かどうかを確かめるために行われています。
従業員意識調査とは、人事部が2008年から年に1回実施しているアンケート調査です。
従業員の意識や職場の状況を把握し、それをもとに職場力の向上や人材育成などの施策を改善することを目的として、全従業員を対象に実施しています。
業務リスク調査アンケートとは、監査部が2022年に実施したアンケート調査で、 2021年に発覚した米国認証に関する問題を受けて実施されました。
2022年度の監査で確認すべき重点リスクとして、製品法規・認証対応が取り上げられ、その上で、米国認証以外にも問題がないかどうかを確認することを目的として、トヨタL&Fカンパニー及びエンジン事業部の約 800名の従業員を対象にアンケートが実施されました。
5 当委員会による調査の基準日
この特別調査委員会は2023年3月17日に設立され、調査報告日は、2024年1月29日と定められました。
つまり、この報告書に書かれている調査結果は、2024年1月29日までに明らかになった事実や情報を集約したものになります。
なので、今後調査を進める中で新しい事実が明らかになることもあり得るということになり、これまでの結論や見解が変更される可能性が出てくる可能性がありますね。
Ⅱ調査結果
第1 豊田自動織機の概要
1 現在の事業の概要
豊田自動織機の基本情報は、下記のとおりです。
- 事業目的:繊維機械、産業車両、自動車・自動車部品の製造・販売等
- 資本金:804億円(2023年3月31日時点)
- 従業員数:74,887名(2023年3月31日時点)
- 売上高:3兆3,798億円(2023年3月期)
- 営業利益:1,699億円(2023年3月期)
- 税引前利益:2,629億円(2023年3月期)
- 当期利益:1,928億円(2023年3月期)
- グループ会社:東久株式会社、イヅミ工業株式会社など
豊田自動織機の事業は、以下のカテゴリーに大別されます。
- 繊維機械事業
- 産業車両事業
- 自動車事業
- エンジン事業
- コンプレッサー事業
- エレクトロニクス事業
- 電池事業
大雑把に分けると、「繊維機械」と「自動車系」で分けれそうですね。
繊維機械事業は社名にもある通り、豊田自動織機の起源となった事業です。
トヨタグループの創始者である豊田佐吉氏が自ら発明したG型自動織機を製造・販売するため、1926年に株式会社豊田自動織機製作所を設立しました。
これが豊田自動織機、ひいてはトヨタグループのルーツとなっています。
現在、豊田自動織機は織機や紡機、繊維品質検査機器等を製造・販売しており、エアジェット織機の世界シェアでは2021年度に首位を獲得しています。
自動織機メーカーとしてスタートした豊田自動織機は、その後事業分野を拡大し、現在の事業ポートフォリオを形成しています。
産業車両事業は1956年に開始され、フォークリフトや自動ローダー/アンローダー、空港等で使用されるトーイングトラクター、工事現場で使用されるショベルローダー等を製造・販売しています。
この事業でも、豊田自動織機は2021年度のフォークリフトの世界シェアで首位に立っています。
自動車事業の歴史は1933年に設置された自動車部に始まり、1935年には大型乗用車「A1型」の試作車が完成、1937年には自動車部が分離され、トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)が設立されました。
これにより自動車の製造・販売事業はトヨタ自動車に移管されましたが、豊田自動織機は現在もトヨタ自動車からの委託を受け、一部のトヨタ自動車ブランドの自動車を開発・製造しています。
エンジン事業も長い歴史を持ちます。
1934年に自動車用エンジン「A型エンジン」の開発に成功し、それ以降、エンジンの製造・販売を行っています。
現在、豊田自動織機は産業車両に搭載されるエンジンのほか、トヨタ自動車製の自動車に搭載されるエンジンも製造・販売しています。
一部のエンジンは社外に販売され、社外の顧客が製造する産業車両に搭載されています。また、船舶用エンジンやガスヒートポンプ(GHP)、熱電併給システム(CHP)、発電機用のエンジンを製造・販売しています。
また、エンジン事業部はエンジンの構成部品であるターボチャージャー、カムシャフト及び各種鋳造製品も製造しています。
コンプレッサー事業は1960年に開始され、自動車に搭載されるカーエアコン用コンプレッサーを製造・販売しています。
豊田自動織機はこの分野でも2021年度の世界シェアで首位です。
エレクトロニクス事業では、自動車向けのエレクトロニクス製品の製造・販売を行っています。
この事業は1987年に、それまで各事業部で独立して行われていた電子部品の開発を新設された電子事業室に集約したことがきっかけで開始しました。
具体的には、車載充電器、車両用ACインバーター、DC-DCコンバーターなどの車載用エレクトロニクス製品を製造・販売しています。
電池事業は、2021年に開始された新しい事業で、こちらも自動車向けの事業です。
現在、豊田自動織機は、トヨタ自動車製のハイブリッド自動車用の電池を製造・販売しています。
豊田自動織機(子会社を含む)のセグメントごとの売上構成比(2023年3月期)は、以下の通りです。
なお、円グラフの「その他」は、主に陸上運送サービスを提供する豊田自動織機の子会社の売上を指しています。
豊田自動織機の子会社で陸上運送サービスに関わる会社としては「大興運輸」Bastian Solutions (バスティアン ソリューションズ)」「Vanderlande Industries Holding(ファンダラデ)」があるみたいですね。
ここで疑問になるのはなぜ自動車関係の事業を現在もしているのか?ですね。
豊田自動織機の設立から7年後の1933年に自動車製造を手掛けてはいますが、その後にトヨタ自動車工業を立ち上げていることから、一見すると豊田自動織機には自動車事業を続ける必要がないように思えます。
では、なぜ豊田自動織機は現在も自動車関連の事業を行っているのでしょうか?
この疑問の答えは、1950年代にあります。
第2次世界大戦後、一時的な朝鮮戦争による特需で業績が向上したものの、戦争終結後に繊維機械の需要が低迷しました。
この結果、約1600名の従業員が余剰人員となり、繊維機械に依存しない新たな事業戦略が必要となりました。
この解決策として、豊田自動織機はトヨタ自動車からの自動車部品および車両組立の下請け生産に参入しました。
当時、自動車需要の増加にトヨタ自動車だけでは対応しきれない状況にあり、豊田自動織機が自動車関連製品のOEM生産を担うこととなりました。
つまり、繊維機械事業で余った人員を自動車部門へ振り分けることで、繊維機械部門は人件費を低減し、自動車関連品の下請け生産を通じて雇用を維持するという事ですね。
これが、豊田自動織機が再度自動車関連事業へ参入した経緯になりますね。
さらに1980年代は自動車関連事業を強化せざる負えない事態になりました。
1980年代のプラザ合意による円高ドル安の進行は、日本の製造業の競争力を低下させ、国内の設備投資が停止しました。これにより、「繊維機械」と「フォークリフト」の需要が低迷し、豊田自動織機はトヨタ自動車に経営支援を要請しました。
そして豊田自動織機は50億円を投じて休眠中の1ラインを改修し、トヨタ・スプリンターの委託生産を開始したことをきっかけにトヨタ向けの委託生産体制を強化しました。
1950年代と1980年代に起きた出来事は、自動車事業…いえ、トヨタ自動車向けの事業が強まったと言えますね。
個人的に、これらの経緯が今回の不正の原因の1つに繋がったのではないかと思います。
今回の不正の原因の1つに「受託体質」というものがありました。
詳しくはまた後でも書くのですが、誤解を恐れずに言えば「トヨタ自動車の言いなりになっていた」ってことですね。
しかもそれが、受託体質とは無縁のハズの産業車両用エンジン側にも及んでいたってところが問題です。
これは豊田自動織機に受託体質が深く根付いている”文化”となっていることがうかがえます。
深く根付いてる理由はトヨタ自動車向けの事業が主力となり、そこで働いていた人が役員や管理職になったからではないかと思います。
2 豊田自動織機の組織概要
豊田自動織機の組織概要はこの図のとおりで、それぞれの事業ごとに当該事業を所管する事業部または事業室が設置されています。
事業部制を採用する多くの会社がそうであるように、豊田自動織機も事業部がそれぞれ独立して損益責任を持ち、事業部の業績はそれぞれの損益に基づいて評価されています。
また、トヨタL&Fカンパニーは、豊田自動織機の組織における唯一の社内カンパニーで、産業車両事業をしている所ですね。
ここは豊田自動織機唯一の社内カンパニーですが、他の事業部と組織的な位置付けが異なるわけではなく、一事業部門として位置付けられています。
ちなみにL&Fとは「ロジスティクス&フォークリフト」の意味です。
3 フォークリフト事業の概要等
上記のとおり、フォークリフトを製造・販売するのは、トヨタL&Fカンパニーで、そのエンジンの製造しているのはエンジン事業部です。
L&Fは、エンジン事業部から供給されたエンジンを用いて、フォークリフトを製造・販売しています。
現在、国内で製造中の主要なフォークリフト用エンジンを整理すると以下のとおりです。
「ガソリンエンジン」「LPGエンジン」「ガソリン・LPG併用エンジン」これら三つのエンジンタイプは基本構造が同じであり、主な違いは燃料供給システムにあります。
ガソリンエンジンにはガソリン用、LPGエンジンにはLPG用、そしてガソリン・LPGエンジンには両方の燃料を供給するシステムが備わっています。そのため、これらのエンジンは型式名を共有しています。
また、4YエンジンはガソリンやLPGだけでなく、CNG(圧縮天然ガス)も燃料として利用できることが特徴です。
フォークリフト事業の重要な転換点として2001年の製販統合です。
この時点まで、フォークリフトの開発・製造は豊田自動織機が行い、製品企画・営業活動・販売はトヨタ自動車が担っていました。
しかし、2001年に効率的な事業運営を目指し、製品企画から販売まで豊田自動織機が一手に担う体制に変更。そのときにトヨタL&Fカンパニーが設立されました。
そして、トヨタ自動車からはフォークリフト関連の役職員が転籍してきました。
転籍してきた人の内訳はフォークリフトの企画、営業活動及び販売に従事していた方々です。
つまり、2001年まではフォークリフトは”受託”して作っていたけど、製販統合された後は製品企画から販売まで行うようになった。
そしてトヨタ自動車で働いていた人も来たということですね。
豊田自動織機は、エンジンを搭載したものと電気モーターを搭載したもの両方のフォークリフトを製造・販売しています。
特に、電動フォークリフトの普及は著しく、2021年度の国内販売台数では約60%を占めています。
これは、カーボンニュートラルへの取り組みと電動化推進の流れによるものです。
ですが、大出力が求められる現場や電力供給に課題のある現場では、エンジン駆動のフォークリフトにも依然として需要があるため、豊田自動織機はエンジン駆動のフォークリフトの製造も継続しています。
4 エンジン事業部の概要
(1) エンジン事業部の事業概要
豊田自動織機のエンジン事業部では、トヨタ自動車向けの自動車用エンジンと産業車両に搭載される”産業用エンジン”の製造を行っています。
ここでいう産業用エンジンとは、豊田自動織機において自動車用エンジンを除いたエンジンの事で、具体的にはフォークリフトや船舶用、GHP(ガスヒートポンプ)用、CHP(コージェネレーション)用、発電機用、高圧洗浄機用などのエンジンを指します。
エンジン事業の中心となるのは自動車向けエンジンです。
前述の通り、L&Fの売上は豊田自動織機全体の売上の6割以上を占めていますが、エンジン事業の売り上げおよび売り上げ台数でみた場合、産業用エンジンの売上は全体の約1割程度に留まり、その存在感は大きなものとはいえません。
産業用エンジンは大きく分けると、フォークリフト用とそれ以外に分けられます。
と言うのも、フォークリフト用エンジンの販売台数は、産業用エンジン全体の約8割を占めているからですね。
フォークリフト用エンジンの一部は、L&Fが製造するショベルローダ等のフォークリフト以外の産業車両にも搭載されています。
フォークリフト以外向けのエンジンは、社外の顧客に対して販売されることから、「外販エンジン」又は「汎用エンジン」と呼ばれることもあります。
エンジン事業の製品ラインアップについて整理すると、この図のようになります。
まず自動車用エンジンを開発し、技術やノウハウを得て、フォークリフトや船舶用エンジンの開発を行います。そしてフォークリフト用エンジンでの技術やノウハウを基に、建設機械用エンジン、発電機、GHP(ガスヒートポンプ)、CHP(コージェネレーションシステム)用のエンジンを開発しています。
特に、フォークリフト用エンジンでの技術やノウハウは、外販エンジンのラインアップ拡大において重要な役割を果たしており、これが近年の産業用エンジン事業の主流となっています。
自動車用→フォークリフト用→外販エンジンと開発が進んでいくことは注目した方がよさそうですね。
不正行為が発覚した建設機械用ディーゼルエンジン、いわゆる「建機用1KDエンジン」も、このフォークリフト用1KDエンジンをベースに開発された外販エンジンです。
そして、下の図のように外販エンジンの販売台数は、主にGHP用エンジンが占めていますが、2017年に販売を開始した建機用1KDエンジンが販売台数を伸ばしています。
(2) エンジン事業部の組織概要
エンジン事業部は、技術第一部、技術第二部、品質保証部、法規認証監理部などの部署で構成されており、従業員数は合計で約3,200名です。
このうちエンジンの開発を担っているのは、技術第一部及び技術第二部です。
以前まで技術部は分かれていませんでしたが、後述の理由により、2021年9月、エンジンの開発業務の効率化を目指して分割。
技術第一部は先行開発業務、自動車用ディーゼルエンジンの設計、産業車両用エンジンの設計・適合・制御業務を、技術第二部は自動車用ディーゼルエンジンの適合業務と制御業務をそれぞれ担当する様になりました。
なお、2023年1月からは自動車用エンジンと産業用エンジンの区分ではなく、設計、適合、制御といった機能軸ごとに開発室を分け、技術第二部が適合業務及び制御業務を、技術第一部が設計業務等その他の開発業務を担当することとなりました。
ここで各業務について説明しますと、次のようになります。
- 先行開発業務:将来のエンジンに採用する要素技術の開発を行う業務
- 設計業務:量産エンジンの設計を行う業務
- 適合業務:燃費、排気、出力などの制御目的に対し、制御パラメータを最適値に設定する業務
- 制御業務:エンジン制御システム(以下「ECU」)の開発を行う業務
排出ガス規制の観点から見ると、適合業務と制御業務は密接に関連しています。
具体的には、制御業務担当者がエンジン制御のための演算式を作成し、適合業務担当者がその演算式に適用する具体的な数値を決めます。
例として、EGR(排出ガス再循環)について取り上げます。
EGRとは、吸気時に燃焼後の排出ガスの一部をシリンダーに戻すシステムで、ディーゼルエンジンでは窒素酸化物(NOx)の生成を低減させるために使われます。
ガソリンエンジンの場合だと燃費向上の目的で使われますね。
制御業務担当者はシリンダーに戻す排出ガスの量を調整する演算式を作り、適合業務担当者はディーゼルエンジンが規制値を満たすよう特定の吸気量に対してどれだけの排出ガスをシリンダーに取り込むかといった、演算式に具体的な制御パラメータを適用します。
これらの制御パラメータの決定により、エンジンの排出ガス性能が確定されます。
2021年9月に技術第一部と技術第二部を新設した背景には、その年の6月1日に自動車用ディーゼルエンジンの開発主体がトヨタ自動車から豊田自動織機へ移行したことがあります。
これまで豊田自動織機はトヨタ自動車の指示のもと、自動車用ディーゼルエンジンの開発を委託されていましたが、2021年6月1日にトヨタ自動車との間でエンジンの図面等の譲渡契約が結ばれ、これによりエンジン設計図面の所有権と知的財産権が豊田自動織機に移り、エンジンの開発を自社で行う事になりました。
これを受けて、豊田自動織機はエンジンの適合業務と制御業務を強化するために技術部を再編成し、技術第二部が設立されました。
具体的には、これまで自動車用ディーゼルエンジンの適合業務及び制御業務を担当していた開発室の人員を増強した上で、技術第二部に格上げされました。
豊田自動織機は、米国の認証申請に関する調査開始を受けて、2021年3月にエンジン事業部内に「法規認証業務」に特化した法規渉外認証室を新設しました。
この専門部署は、法規解釈、当局との交渉、認証試験の取りまとめなどを担当しています。
その後、同年9月にはこの部署を法規認証監理部に昇格させ、組織を強化しました。
法規認証監理部には合計24名の従業員が勤務しており、部長はトヨタ自動車からの出向者が務めています。
え…2021年3月以前は…?
2021年9月以前、豊田自動織機の技術部開発室は複数の専門グループで構成されていました。これには設計業務を担う「設計グループ」、適合業務を担う「適合グループ」、そして制御業務を担う「制開室」が含まれます。
加えて、先行開発を行う部門や、エンジンの運転や排出ガスの成分値の測定など、試験作業を担当する「実験課」も存在していました。
報告書では「設計グループ」と呼んでいますが、正式な名称は別に存在します。ただ、その名称は時期により異なる場合があるのでこのような書き方をしていますね。
例えば、2013年頃に1KDエンジンの設計を担当する部門は「開発第三室SD3G」、適合業務を担当する部門は、「開発第三室SD2G」、制御業務を担当する部門は、「制御開発室C2G」、実験部門の名称は「実験課」という名称でした。
ただ、法規認証業務に関しては、2021年3月まで専門部署が存在せず、その業務は適合グループが担っていました。
えぇ…
設計グループと適合グループは、時期に応じて「グループマネージャー」または「グループリーダー」によって統括されていました。
これらのグループの下には、複数のワーキンググループが設置され、各ワーキンググループはワーキングリーダーにより管理されていました。
エンジン事業部の組織構造は、2023年1月まで自動車用エンジンと産業用エンジンに関する業務が区別されていました。自動車用エンジンの設計、適合、制御業務と産業用エンジンの設計、適合、制御業務は、それぞれ異なる開発室が担当していました。
エンジン事業部の国内拠点は、1982年に稼働を開始した碧南工場と、2000年に操業を開始した東知多工場の2箇所です。
このうち、碧南工場は主に自動車用エンジン及び産業用エンジンを開発・生産していて、東知多工場は主に自動車用エンジンを生産しています。
5 L&Fの概要
(1) L&Fの事業概要
L&Fはフォークリフトを中心とする産業車両の開発・製造・販売事業のほか、フォークリフトの販売金融、フォークリフトのアタッチメントなどのコンポーネント・補給部品の販売及びアフターサービスの提供等を行うバリューチェーン事業、並びに物流機器やシステムを企画・開発する物流ソリューション事業を展開してます。
各事業の売上高の内訳は、近年(報告書発表当時)、産業車両の開発・製造・販売事業が約40%、バリューチェーン事業が約40%、物流ソリューション事業が約20%です。
フォークリフトの年間生産台数を見てみると、2022年度の生産台数は、製販統合が行われた2001年度に比べて、約2.5倍となっています。
ここまで伸びた理由は、海外生産拠点の拡大や欧米の大手フォークリフトメーカーの買収などによるものですね。
(2) L&Fの組織概要
L&Fは、製品企画部、製品開発部、法規認証部等の部署から成り立っています。
そのうち、フォークリフトの開発に関与する部署について開発タイミングに沿って説明すると、
まず、商品企画を行う営業統括部と製品企画部。
フォークリフトの企画段階においては、L&Fの各部署がそれぞれの立場から新製品に関する品質要望書を作成し、営業統括部がそれを取りまとめて商品企画を立案。
その後、製品企画部が営業統括部の商品企画案を受けて、企画案を製品のスペックに落とし込み、新製品のカタログ仕様やセールスポイントを決定そます。
次に、具体的な製品の設計業務を行うのは製品開発部機種開発室と製品開発部ES開発第一室です。
まず製品開発部機種開発室ですが、取り扱う車両ごとにグループが分かれていて、エンジン搭載車に関与するのはKS2グループとKS4グループの2つです。
KS2グループは、車両全体のレイアウト設計を担当していて、エンジンに関わるところでは、エンジンの搭載位置や吸気系・排気系の設計を担当しています。
KS4グループは、企画された性能を出すために必要なエンジンの出力等、エンジンの仕様を決定する部署です。
また、L&Fにおけるエンジン事業部の窓口も務めていて、エンジン事業部に対して外注品発注依頼書を出し、エンジンの設計を依頼しています。
ちなみに、2007年4Yエンジン及び2009年4Yエンジンの開発に関与したL&Fの技術部開発室エンジングループは、KS4グループの前身となりますね。
製品開発部ES開発第一室は車両側のECUの開発を担当しています。
車両側のECUはエンジンのECUとは別ものですが、両ECU間で情報のやりとりがあることから、エンジン事業部と必要に応じて情報共有を行っています。
最後に、法規認証を行う法規認証部です。
法規認証部は、車両の認証取得、製品関係の法規特定、遵守確認等を担当する部署です。
この部署は2023年1月に、製品企画部法規認証室が部に格上げされた部署です。
なぜ格上げされたのかというと、米国認証申請に関する調査開始を受けて、法規遵守体制を強化するためですね。
ちなみに製品企画部法規認証室ですが、ここも時期によって名称は異なっており、2022年6月以前の名称は製品企画部技術管理室、2017年6月以前の名称は技術部技術管理室です。
エンジン事業部には無かった認証業務をやる部署はあったんですね。
6 エンジン開発に関連する会議体の概要
(1) 経営会議
経営会議は、業務執行状況の確認並びに事業部、事業室及び各機能の情報共有を目的とする会議体です。
通常は月に1回開催されますが、必要に応じて臨時で行われることもあります。
この会議は会長、社長、副社長、経営役員、執行職及び常勤監査役が参加するほか、社長が指名する役職員で構成され、全社売上、利益計画の達成状況、各事業部及び各事業室による業務執行状況などについて、報告・確認が行われます。
(2) マネジメント・コミッティ
マネジメント・コミッティ(以下「マネコミ」といいます。)は、豊田自動織機における経営の重要事項を審議する経営会議体の一つです。
マネコミは、副社長以上の取締役及び社長が指名する者で構成され、必要に応じて随時開催されます。
この会議の目的は、社長決裁事項又は取締役決議事項について、事前に審議することです。
具体的な内容としては次の通りです。
- 会社に関する重要事項(ビジョン、経営方針等)
- 経営戦略に関する事項(中期経営計画、大型の投資、M&A、大規模組織変更等)
- 事業部門に関する重要事項(重点テーマ、中期事業計画、年度計画等)
- そのほか全社に関する重要な経営課題
(3) 事業執行会議
事業執行会議は、豊田自動織機における経営の重要事項を審議する経営会議体の一つです。
各事業部の課題や方針などについて審議することを目的としていて、社長及び副社長、経営企画部門の担当取締役、人事部門の担当取締役、事業部等の関係役員をもって構成され、必要に応じて随時開催されます。
具体的な審議内容は、年度方針の確認及び実施状況や事業部門重点テーマ、中期事業計画の進捗確認、その他事業部門に関する重要事項の中から、社長又は経営企画部長が選定した案件が審議されています。
(4) エンジン委員会
エンジン委員会は、フォークリフト等の産業車両用エンジンの開発に着手に着手する前に、エンジンの選定や仕様について審議を行うため委員会です。
この委員会は以下の参加者が参加し、決議は、L&Fの役員とエンジン事業部の役員の同意をもって行うものとされています。
- L&Fを所管する役員
- エンジン事業部を所管する役員
- L&Fの商品企画担当部署
- 製品企画担当部署
- エンジン開発担当部署及びその他関係部署の役職員
- 並びにエンジン事業部の企画担当部署
- 産業車両用エンジン開発担当部署及びその他関係部署の役職員
この会議の中で認証に関わりそうなのは(4)エンジン委員会だけみたいですが、これはエンジンの開発前に行われるのですね。
エンジン開発前に認証が通りそうにないって話をすべきって言うのは理想ではありますが難しそうですね…
7 品質管理に関連する組織の概要
(1) 本社品質統括部
本社品質統括部は豊田自動織機グループの品質管理体制を整備をするための部署です。
元々は「品質管理部」と呼ばれていましたが、今回発覚した不正の後に事業部に対する品質監査・統制機能を強化したことに伴い、2023年1月から「品質統括部」に組織名称が変更がされました。
これまで豊田自動織機は、各事業部に品質保証部門を、本社機能として品質統括部を設置し、品質に関する理念である「品質ビジョン」の実現に向けて豊田自動織機グループ全体の品質に係る体制整備支援等を行ってきました。
そして、今回発覚した不正行為を受けて、品質に関するガバナンス体制の強化に取り組み始めています。
まず、品質統括部がこれまでやってきた体制整備支援業務の概要を説明した上で、品質に係るガバナンス体制の強化に向けた取組状況について説明します。
豊田自動織機では、事業年度ごとに、その年度における重点実施事項を明確にした「品質指針」を策定し、これを豊田自動織機グループ全体に展開することで、「品質ビジョン」の実現に向けた取り組み方針を示していました。
ちなみに品質ビジョンの内容は「豊田自動織機グループに働く一人ひとりはそれぞれの持ち場・立場で自工程完結を実践し世界各地域のお客様の期待を超える魅力的な商品・サービスを安全で安心な品質で提供します」とのことです。
品質統括部は、この「品質指針」の作成に当たっての、取りまとめ業務を担っていました。
具体的には、品質統括部は、各事業部に品質保証活動を実施する上での課題・意見を提出させた上でこれを集約、各事業部の品質保証部門長が参加する品質保証部門長会議において当該課題・意見について議論をしていました。
そして、品質統括部は、品質保証部門長会議の議論の結果を踏まえ、「品質指針」を策定し、品質統括部担当役員、品質保証部門長会議、代表取締役社長の承認を経て内容が決定され、取締役会においても報告されていました。
また、品質統括部は、各事業部の品質保証部門長が参加する品質保証部門長会議を主催し、各事業部において開催されている事業部品質会議にオブザーバーとして参加することで、各事業部における「品質指針」の実行状況を確認するとともに、品質保証活動を実施する上での課題等を抽出することとされていました。
この品質統括部が抽出した課題等については、品質統括部担当役員が議長となり、各事業部の品質保証部担当役員、事業部長等が参加する品質機能会議において対策等を議論・検討し、これを実行に移すこととされていました。
また、品質統括部は、各事業部に対する品質保証に関連する規程・ガイドラインの整備支援、従業員に対する品質教育・QCサークル活動の企画・支援、取引先に対する品質監査等の業務を実施することで、豊田自動織機グループにおける品質保証体制構築に向けた支援を行うこととされていました。
豊田自動織機は、今回発覚した一連の不正行為を受けて、上記各事業部への品質に係る体制支援業務について、より実効的なものとなるよう検討をするとともに、新たに各事業部に対する管理・監督機能を強化するために、品質統括部が各事業部に対して品質監査を実施することで、品質に係るガバナンス体制を強化する取組に着手しています。
具体的には、品質統括部は、品質に係るリスクを分析し、当該リスクを踏まえ、各事業部の品質保証部における品質監査をモニタリングすることで、各事業部の品質保証部に対する管理・監督機能を果たすほか、重要な品質リスク項目については、品質統括部が直接、各事業部の監査対象部署に対するモニタリングを行うことを予定しています。
そして、これらの品質統括部による品質監査は、監査部や外部の専門家による支援を受けながら、事業部から独立した第三者的な視点で実施することとしています。
また、これまでの事業部の品質保証部における品質監査が、規程に従った運用がなされているかといった観点からの監査であったのに対して、今後はそもそも規程自体が法規等に準拠した適切なものであるかといった点も含めて監査を実施する予定です。
長くなりましたが、本社品質統括部とは品質管理のルールを取り決めている所で、不正発覚後は法律を含めたルールが守れているかチェックもするって事ですね。
(2) エンジン事業部品質保証部の概要等
エンジン事業部品質保証部(以下「品質保証部」)の組織体制は時期によって異なりますが、概ね次の通りです。
- 新製品の生産準備や量産製品の品質保証などの品質保証業務を担当する部署
- 内部・外部監査対応、QMS事務局などの監査業務を担当する部署
- 検査試験装置の点検・管理、各種部品の検査や品質確認などの品質管理業務を担当する部署
エンジン事業部では、エンジンの生産は碧南工場及び東知多工場で行っていて、それぞれの工場に、品質保証業務を担当する部署及び品質管理業務を担当する部署が設置されています。
品質保証部の組織体制の変遷は、下の表のとおりです。
ちなみに、エンジン事業部品質保証部の名称は、2004年6月1日に「グローバル品質保証部」に変更され、2010年1月1日に「品質保証部」に戻されていますが、報告書では時期を問わず「品質保証部」と呼びます。
(3) 本社監査部による内部監査について
豊田自動織機では、内部監査部門として監査部を設置しています。
監査部は、金融商品取引法に基づき、財務報告の信頼性を確保するための内部統制システムの整備や運用状況の監査を行うほか、代表取締役の指示のもとで、全社および連結子会社を対象とした内部監査を実施しています。
監査の結果は毎月、担当役員や常勤監査役に報告され、四半期ごとに代表取締役にも報告されます。
監査部が行う内部監査は、主に定期監査とテーマ監査の2つに分けられます。
まず定期監査についてです。
毎年、監査部は各部門に自主点検の実施を指示します。
自主点検項目は年度によって多少異なりますが、概ね、
- 「社内稟議や経費申請に不備がないか」
- 「社内規程の定期的な見直しが実施されているか」
- 「各部門が作成した自主点検票通りに管理できているか」
と言った管理体制に関する項目が対象となっていました。
そして、各部門に対して、3年に1回は監査をするように監査計画が立ています。
つぎにテーマ監査。
他社や豊田自動織機で発生した問題や法改正などの状況を踏まえてリスク分析を行い、代表取締役の承認を得たうえで監査テーマを決定し、関係する部門に対してテーマ監査を実施します。
実際、2016年度には他社で自動車の認証申請に関する不正が発覚したことを受け、豊田自動織機の全事業部の技術部門を対象に、認証申請の有無や不正のリスクについて監査を行いました。
この際、担当者へのヒアリングや申請書類の閲覧を実施しましたが、今般発覚した一連の不正行為に関するリスクを正確に把握することはできませんでした。
つまり、エンジン事業部における排出ガス認証申請に関する不正の発見にはつながらなかったということになります。
品質管理の組織でも認証関係のチェックはしていたけど不正は見抜けなかったということですね…
ミスや見落としなら見抜けそうですが、”その道のプロが行う不正”となると見抜くのは難しそうですね…
これ以降はまだ執筆中です…
Ⅲ不正行為の原因及び再発防止策の提言
執筆中です
コメント
まだ途中ですが、ありがとうございます。
頭がこんがらがりそうです。
完成を楽しみにしています。
ありがとうございます!
ただ、私の執筆スピードはとても遅いので、気長にお待ちいただければ幸いです…