自動車は出発地点から目的地まで移動するのにとても便利な移動手段で、徒歩や自転車よりも行動範囲を広げ、人や荷物も多く運ぶことが出来、私たちの生活を便利で豊かにしてくれます。
特に個人が所有する自家用車は現代人にとって生活必需品とも言える存在で、1908年にフォード・モデルTが量産を開始してからはその台数は爆発的に増え、20世紀後半には自動車を見ない日はまったく無いほど普及し、とても身近な存在となりました。
日本自動車工業会の発表によると、全世界の四輪車の保有台数は2020年に15億3,526万台。
人口1,000人当たり197台、5.1人に1台所有していることになります。
ですが、自動車が普及してくることによって様々な課題が出てきました。
交通事故の問題
交通事故は深刻な社会問題となっています。
WHOによると、世界では交通事故によって毎年約130万人死亡しているとのことです。これは1分あたりに2人以上が死亡していることになります。
日本では交通違反や整備不良などの厳罰化、交通安全教育の実施、道路の工事や改修、整備などにより、交通事故の発生件数は減少傾向にありますが、いまだに年間数十万件もの事故がおいています。
警察庁の統計によると、日本で2021年中に発生した交通事故は30万5425件,死者数は2636人、負傷者数36万1768人となっています。
警察庁:統計表
交通事故の大半はドライバーが原因です。
原付以上運転者が第1次当事者(過失が一番重い人の事)とされる事故の件数は28万4264件で事故の原因の93%を占め、安全運転義務の件数は20万4528件と事故の原因の67%を占めています。
安全運転義務の内訳として、”安全不確認”や”わき見運転”などの認知のミス、”動静不注意”や”漫然運転”などの判断ミス、”運転操作不適”などの操作ミス、そして”安全速度”があります。
そして、認知と判断のミスを足し合わせると17万9598件と事故の原因の58%を占めていて、やっぱり交通事故の大半はドライバーが原因となっています。
認知、判断、操作ミス以外にも、体調の悪化によって引き起こされる事故も問題です。
トイレを我慢してたり、風邪をひいて意識がもうろうとして運転に集中できない状態になったりすることもあれば、心筋梗塞や脳梗塞が起きて運転が出来なくなってしまう事があります。
正常に運転が出来ない状態が続けば事故につながりますが、普通の車はドライバーが運転不能状態に陥っても安全に停車する術を持ちません。
自動運転は、人間が運転を行わないので、ドライバーの認知・判断・操作ミスによる事故を抑えることが出来ると期待されています。
また、一般の車でも衝突被害軽減ブレーキの様に、自動運転技術を活用することで事故を防止することが期待されています。
交通渋滞による問題
交通渋滞も大きな社会問題とされています。
交通渋滞の原因は大きく2つあります。
1つは交通容量が不足してしまう事です。
大型連休などで車が急増する場合や工事や事故で車線が規制された場合などの理由で、走行車両が道路の交通容量を超えてしまった場合に渋滞が起きます。
もう1つはドライバーの行動が原因で起きる事です。
トンネルの入り口や上り坂・サグ部でドライバーが無意識に速度を落とし、後続車にもそれが伝わっていくことで渋滞が起きます。
また、道路が混んでくると追い越し車線のほうが速く走ることができると思い込み、追い越し車線側に車の数が偏ることで渋滞が起きます。
他にも、道路上に車を駐車する事で車線をふさいでしまい渋滞する事もあります。
このように道路の交通容量は足りているものの、ドライバーの行動によって交通容量が低下して渋滞が起きます。
自動運転の場合、車の速度を一定に保てるのでドライバーが無意識に減速してしまう事はありません。
その上、複数の車が車間距離をつめて”群”となって走行する隊列走行が可能になるので、車間距離を詰めた分、交通容量が増えます。
また、自動運転では人が下りた後、自ら離れた駐車スペースに移動することが出来るので、路上駐車も無くなりますので、これも渋滞解消につながります。
エネルギー消費の問題
これまで普及してきた自動車のほとんどは、ガソリンや軽油を燃料として動く内燃機関(インターナル・コンバスチョン・エンジン)を搭載しています。
エンジンを動かしている間は止まっている最中も燃料を消費し続け、当然のことながらアクセルを踏み込むとその分燃料を消費します。
ガソリンや軽油を自動車の燃料として使うには2つの問題があります。
まず、ガソリンと軽油は石油から作られていることです。
石油は限りある資源である上に、日本は99.7%以上を輸入に頼っています。
次にガソリン車の排ガスには一酸化炭素や炭化水素(HC)、窒素化合物(NOx)、粒子状物質(PM)等の公害につながる有害な成分や、二酸化炭素が含まれます。
特に二酸化炭素は地球温室効果ガスとして扱われ、その削減は年を追うごとに厳しく求められています。
1990年代にカリフォルニア州がZEV規制を作って以来、年々その規制が厳しくなっていて、2035年以降はガソリン車の新車販売を禁止する地域がでる程になっています。
その代わりにEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)が注目を集めています。FCVの排ガスは水のみ、EVに至っては排ガス自体を出しません。
が、ガソリン車に比べると航続距離が短く、電気や水素の生成方法によっては石油資源を使う場合もあるので、こちらも燃費(電費)の削減が求められます。
これらの事から、ガソリンや軽油といった石油を原料とした燃料の消費削減が求められています。
自動車の燃費削減を行う上で最も効果が高いのは「燃費効率の良い自動車を作る」です。
そもそも、自動車の燃料は100%走行に使われるわけではありません。
燃料消費の内訳は主にエンジン効率と走行抵抗で決まり、いずれも自動車の性能によって変わります。
エンジンの熱効率は一般的に30~40%ほどと言われています。
つまり、燃料の半分は捨ててしまっていることになります。
そして燃料から取り出した30~40%のエネルギーも、すべてが車の走行に使われる事はありません。
車が走行する際には”走行抵抗”という走行を妨げる力が働き、燃費に影響を与えます。
走行抵抗には”加速抵抗”、”空気抵抗”、”勾配抵抗”、”転がり抵抗”の4種類あり、いずれも自動車の性能によって変わります。
燃費効率の良い自動車を作るにはエンジンやモーターの効率を良くしていく、車体や変速機、タイヤなどの改良して走行抵抗を減らす必要があります。
ですが、自動車の改良にも限界がありますので、車の走らせ方にも注目しなくてはいけません。
走行抵抗、エンジンの効率は自動車の性能で決まる部分もありますが、ドライバーの運転によって変わる部分もあります。
しかし、普通のドライバーは燃費の良い走り方を知らない場合がほとんどですし、知っていたとしても常に効率の良い走りができるわけでもありません。
自動運転には燃費削減の効果が期待できます。
自動運転技術で無駄がないエコ運転が出来れば、人間のドライバーが運転するよりも燃費削減につながりますし、渋滞が無くなり交通の流れがスムーズになれば無駄な加減速が抑えられますので、さらに燃料消費を抑えることが出来ます。
また、隊列走行が実現できれば空気抵抗減らすことが出来るので燃費削減につながります。
モータースポーツのNASCARでは、車間を詰めて一列に並んで走っている光景を頻繁に目にします。これは”スリップストリーム(ドラフティング)”という現象を利用しているからです。
スリップストリームは高速移動する物体の後ろに渦上の空気の流れができる現象で、この中に入ると気圧の低下や空気抵抗の減少によって比較的少ないパワーで走行できることが出来ます。
モータースポーツ以外にも、自転車やスピードスケートなどの競技でもこの現象は知られていて、自然界でも渡り鳥がこの現象を利用して飛んでいる光景が見られます。
少ないパワーで走行できるという事は、それだけ燃料消費量も少なくなるという事でもあります。
とはいえ、一般のドライバーがNASCARばりに車間距離を、それも公道でやるのは自殺行為以外の何物でもありません。
ですが一般のドライバーの代わりに、自動運転技術を搭載した車両がお互いに通信を行えば、隊列走行は実現可能となります。
利便性の問題
自動車の運転は集中しないといけません。
短時間でも集中が切れると事故につながる可能性が高くなるので、注意力を連続的に維持する必要があります。
ですが、長時間の運転で集中力を維持することは困難です。
混雑した道や狭い道の運転はドライバーにとってストレスを与え、集中力を維持するのは難しいです。
逆に空いている高速道路のような単調な道でも集中力を維持することが難しくなります。
さらに休憩の為に駐車する時ですら、ぶつけない様にまわりに注意を払う必要があります。
また、様々な理由で自動車を運転できない人がいます。
自動車の運転には視覚、判断力、操作力などがあり、一定の能力が無いと運転できませんが、身体、特に視覚に障害を持っている人は運転したくても出来ません。
また、これまで運転出来ていた人でも、高齢化により判断力や操作力は衰え、自分で運転するのが難しくなっていきます。
しかし、普通の自動車は運転に必要な能力が不十分な方にとって、その能力を補いきれる程の機能がありません。
自動運転はドライバーが運転をしなくて済むので利便性・快適性が向上します。
普通のドライバーは運転のストレスから解放されることになり、運転出来ない人も自動車で自由に移動することが出来るようになります。
また、車の駐車も自動で行うことが出来れば、周りの車にぶつけないか心配する必要もなくなります。
さらに、車自身が駐車場へ移動する「自動バレーパーキング」が実現すれば、人が駐車場に向かうことも無くなり、さらに利便性が高くなります。
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