自動運転レベル2でも企業が責任を取る可能性がある?

その他

こんにちは、ソラです。

SAE (米国自動車技術会)の運転自動化レベルは0~5までの6段階あり、このうちレベル2まではドライバーによる監視が必要とされ、自動運転ではないとされています。

そして、当然のことながら、各国の法律上でも事故時の責任は運転手が持ちます。

ですが、場合によっては自動車の製造元や販売店が責任を問われる可能性があります。

今回は、どんな場合だと自動車の製造元や販売店が責任を問われるのかについて、これまでに起きた事故をもとにどうなるのかを予想しながら書いてみます。

2018年 神奈川県 東名高速上り線 テスラ・モデルXの事故

自動車の製造元や販売店が責任を書くと言いましたが、その前に「不具合を理由に無罪を主張した場合どうなるか」調べて見ましょう。

2018年4月29日、神奈川県綾瀬市の東名高速上り線で、渋滞中の追突事故で救助活動や交通整理をしていたところに、1台の車がノーブレーキで突っ込み、1人が死亡、2人がけがを負いました。

突っ込んできたのはテスラ・モデルXで、運転手は事故当時オートパイロットを作動させた状態で居眠り運転をしていました。

そして、運転手は裁判にて、オートパイロットのせいで事故が起きたとし無罪を主張しました。

結論から言えば運転手は有罪になり、懲役3年・執行猶予5年が言い渡されました。

有罪になった理由を簡潔に1言で言うと「寝たらあかんやろ」です。

ですよね。としか言いようがありませんね。

ただ、運転手の主張である「オートパイロットのせいで事故が起きた」という点に対して裁判所は、

「システムが故障していたのか、機能の限界だったのかは不明」としました。

つまり、「加害者が裁判でADASの不具合を理由に無罪を主張した場合」は、運転手の過失が無い事を証明しないと無理ってことですね。

このケースだと運転手は居眠りをしていたのですから…

  • 「居眠りしてたことは認めたよね?」
  • 「居眠りしてなかったらブレーキ踏めたよね?」
  • 「そもそも車を買ったとき、機能には限界があるってマニュアルに書いてあったよね?」
  • 「仮にマニュアルも読まず、(2018年時点の)オートパイロットをレベル5の完全自動運転のシステムだと思い込んでたとしても、今まで使ってきて”機能限界”があるってわかってたよね?」

って感じで、ADASと事故が起きた事は関係ないって判断されました。

では話を戻して、「レベル2でも企業側が責任を取るのか?」です。

東名の事故の件には続きがあります。

運転手に判決が下された後、被害者の遺族がテスラを相手に訴訟を起こしました。

訴状の内容の一部をChatGPTに要約してもらうとこんな感じです。

事故の概要およびテスラの責任

2018年4月29日、日本の東京近郊の高速道路で、テスラ・モデルXがオートパイロットを使用中に、典型的な「カットアウト」状況(前方の車両が車線を変更する際の動き)で突然加速しました。このモデルXは、高速道路の路肩に停車していたバン、オートバイ、歩行者に衝突し、■■■■氏を致命的に巻き込む結果となりました。

この事故は、テスラのオートパイロット技術に関連する初の歩行者死亡事故であり、自動運転車関連の死亡事故としては2例目にあたります。

テスラ・モデルXの運転者は、事故直前に居眠りをしていたとされています。テスラは、この悲劇的な事故の責任をすべて運転者に負わせようとする可能性が高いですが、以下の少なくとも3つの理由から、同社は自身の責任を免れることはできません。

第一:テスラのドライバー監視はステアリングのトルク検知だけに依存しており、居眠りや注意力低下を適切に検出できないという根本的な設計欠陥がある。
第二:前走車のカットアウト後に現れる静止障害物を検知できず自動加速してしまうため、オートパイロットは一般的な高速走行シナリオに対応できない。
第三:LiDARなどの冗長センサーを採用せず未完成のベータ版ソフトを公道で運用している点が、テスラの開発姿勢として重大な安全リスクを招いている。

被害者やその家族、また道路を共有するすべての人々に対する責任を果たしていない。

テスラは、オートパイロットシステムの欠陥や安全性を軽視したことによる責任を問われるべきです。

この事故は、技術の進歩と安全性を軽視した結果、重大な危険を引き起こした一例といえるでしょう。

訴訟の結果ですが「却下」となりました。

理由は「訴訟は日本でやるべきだから」です。

この訴訟はアメリカの「連邦地方裁判所カリフォルニア北部地区」に提出されたのですが、

「事故は日本で起きて、証拠関係も日本にあるのだから、日本で裁判できるよね?」

と、テスラが申し立て、それを裁判所が認めた感じです。

カリフォルニアで訴訟したのは当時テスラの本社があったからですね。
(あと多分…「懲罰的損害賠償」も関係しているからでしょうか?)

その一方、テスラは日本での訴訟について、以下を受け入れるとも表明しました。

  1. 日本での訴訟手続きへの同意
  2. 日本での判決の執行可能性への同意(米国内でも執行可能)
  3. 時効の停止および権利の放棄(4年間)

2018年 カリフォルニア州マウンテンビュー テスラ・モデルXの事故

2018年3月23日、カリフォルニア州マウンテンビューの国道101号線と85号線の分岐点の分離帯にテスラ・モデルXが100km/hで衝突。その後、後続の車2台に衝突された後に炎上しました。

この結果、モデルXの運転手が死亡し, 衝突に巻き込まれた車両に乗車していた人が1名が負傷しました。

この事故に関する報道はいろいろありました。

テスラのCEOが秘匿契約を結んだのに調査結果をおもらししてNTSBがキレたとか、

中央分離帯にはクッションが設置されてはいましたが、11日前の衝突事故で壊れてて機能しなかったとか、

ちゃんとクッションを修理しとけってカリフォルニア州運輸局がNTSBに怒られたとか、

運転手は元エレクトロニック・アーツのプログラマーで4か月くらい前にアップルに入社したとか、

使っていたのはアップルから支給された2台のiPhoneのうちの1台とか、

遊んでたゲームはSEGAの「トータルウォー:スリーキングダムス(三国志)」という、いわゆるソシャゲではなくパソコンのゲームをiPhoneに移植したガチRTSだったとか…

色々ありましたが、本題から少し離れているので省略します。

調査の結果、運転手はオートパイロットを作動させ、スマホでゲームをしていたことが原因と結論を出しました。

この事故の後、モデルXの運転手の遺族がテスラ(とカリフォルニア)を相手に訴訟を起こしました。

遺族の主張としては以下の理由で運転手は亡くなったとしています。

  • テスラの車両設計とシステムの欠陥が原因で事故が起きた。
  • 安全機能が不十分なまま車両が販売された。
  • 販売後も、適切な警告やリコールを行わなかった。
  • テスラやそのCEOが誤解を招く宣伝や広告を行った。

これに対してテスラも争う姿勢を見せました。

そしてカリフォルニア州サンタクララ郡の上級裁判所で陪審員の選出と裁判が始ま・・・

る前に終わりを告げました。

テスラが和解を申し出たのです。

和解には遺族への補償として同社が支払った金額を含む様々な内容を非公開にすることを条件としていました。

そして2024年4月にこの和解は成立しました。

2016年 千葉県 日産・セレナ 試乗中の事故

2016年11月27日 千葉県八千代市、ある男性が日産プリンス千葉販売八千代北支店へ車の試乗に訪れました。

試乗したのは同年発売されたC27型セレナで、”クラス世界初”、”国内メーカー初の自動運転技術”「プロパイロット」を搭載していました。

セレナに試乗した男性に対し、同乗していた店員が…

「本来はここでブレーキですが踏むのを我慢してください」

と指示し、それに運転手が従ったところ…信号待ち中の乗用車にノーブレーキで追突。

追突された車に乗っていた2人が軽傷を負いました。

当時、現場は夕暮れで天気が悪く、視界が悪かったため衝突被害軽減ブレーキ、いわゆる自動ブレーキが作動しなかったとされています。

千葉県警は店長と店員を業務上過失傷害の容疑で、運転手…つまり試乗していたお客さんを自動車運転処罰法違反(過失傷害)で千葉地検に書類送検しました。

2016年だとCMでも自動ブレーキとか自動運転の表現があまり規制されてなかったので、誤解するでしょうね…

それを抜きにしても、店員にこんなことを言われたら大丈夫って信じちゃいますよね。

「自動運転HMI 委員会」 レベル2 運転自動化システムの仮想事故に対する模擬裁判

2022年12月20日 明治大学法廷教室にて、とある模擬裁判が開かれました。

当時、自動運転レベル2のADASすでに世界中で普及し、それによる事故の報告も相次いでいました。

そして、これらの事故の大半がドライバーのシステムに対する過信や誤解が関わっています。

このようなドライバーが原因となるレベル2のADASの事故を防ぐにはどうすれば良いか?

その検証を行う為に「自動運転HMI委員会」が模擬裁判を企画しました。

この委員会は、大学等研究機関の人間工学専門家、法学・法曹界の専門家、企業の専門家、安全に関心の高い自動車ユーザから構成されています。

模擬裁判では、レベル2を搭載した車両が関わる仮想事故を題材にヒューマンファクター、特に「人間の能力の限界」が明らかになった場合、法的責任がどのように判断されるのかを検証しました。

この模擬裁判の背景には、上記でも触れた2018年の東名高速で発生した死亡事故があります。

事故の原因にどのようなヒューマンファクターが関係していたのかを掘り下げた上で、同じような事故を防ぐために何が必要かを考えたそうです。

そして、模擬裁判の結果は設計面と制度の面で、具体的にどのような改善が求められるかという提言としてまとめられました。

【模擬裁判の目的】
目的は、レベル2を搭載した車が引き起こした仮想事故をもとに、システムを安全に使ううえでの「人の能力の限界」が明らかになった場合、どこまで責任を問えるのかを検証することです。

具体的には、メーカーの設計に不備があった場合の責任や、メーカーや販売店による説明が不適切だったり、不十分だった場合の責任がどのように判断されるかってコトですね。

【想定事故】
(1)本件自動車のシステム
   レベル2 ハンズON システム(仮称“オートドライビングシステム,Auto Driving System, AuDS”)

(2)事故発生状況
  日時:令和4 年9 月30 日(金)午後14:00 ごろ 場所:第2 東名高速道路 新清水IC ─駿河湾沼津IC 間上り,沼津トンネル西側付近

(3)事故様態
  ① 豊田東IC から第2 東名高速に入り,すぐにAuDS を起動。
  ② 自車は順調に第2 通行帯を設定車速120km/h で走行していた。
   新静岡IC を過ぎたあたりで眠気を感じたが,目的地の御殿場までは大丈夫だと思っていた。
  ③ 新清水IC を過ぎたあたりからトラックに追いついたが、AuDS に任せて約80 km/h で第2 通行帯を先行車追従走行していた。
 ④ 沼津トンネル手前付近で先行車両が第1 通行帯に急な車線変更を行った直後に,自車と同一車線に路上落下物を発見したが,自車は加速を始めた.
 あわててブレーキを踏みながらハンドルを切り,空いていた第1 通行帯に車線変更したが,車両は安定性を失い制御不能となり,路肩を越えてのり面に乗り上げ横転した.
  ⑤ 原告は複数か所を骨折し,痺れなどの後遺症が残った。自車は大破し運搬中の貴重品(価格2000万円の壺)が破損した。

【原告(ドライバー)の認識】
   ① 自車のAuDS は,世の中でも評判のシステムである。
    またオートという名称や運転支援システムという説明から,あのような状況でも自動で対処,もしくは対処を助けてくれると思っていた。
   ② 販売店ではシステムの使い方や機能の説明があり、重要事項説明書に署名したが、あのような場面でシステムが対処できないことや、強い加速を始めることの説明は十分でなかった。
    そもそも,販売員からは重要事項説明書について口頭での説明はなかった。
    このシステムは「運転支援システム」であるという説明を受けており、危険な場面ではそれへの対処を支援してくれるシステムだと思っていた。

【訴訟提起】
 原告(ドライバー)が、自動車のメーカーと販売店に対して、総額4000万円(車両1000万円、 壺2000万円、 治療費その他1000万円)の損害賠償を請求。

【原告役(ドライバー)の主張】
自動車のメーカーに対する請求:
製造物責任法に基づく損害賠償請求。
当該請求の根拠は、本件自動車の欠陥、すなわち、

①「設計上の欠陥」
 (i) 障害物の存在にもかかわらず,減速等せず急加速する挙動
 (ii)AuDS 作動時における通常人の覚醒度の低下等を踏まえた安全防止策の設計がなされていない

②「指示・警告上の欠陥」
・AuDS及び衝突被害軽減ブレーキによって対処できない事象に原告が適切に対応できるようにするための最低限の指示・警告を行っていない

販売店に対する請求:債務不履行に基づく損害賠償請求。
当該請求の根拠は、
①上記欠陥のある本件自動車を販売した。
②本件自動車の取扱いに関する説明義務(原告がAuDSと衝突被害軽減ブレーキを有する本件自動車の特性を理解し、適切に利用できるよう説明する義務)に違反している

【鑑定人役の意見 その1】
(1)鑑定人1(人間工学専門家):
人の能力限界この事故の経過を人間工学の観点から見るとポイントは三つある。

第一に人間にとって覚醒度が高まる最適な作業負荷の範囲があり、それよりも低負荷の作業では覚醒度低下を引き起こす。監視作業はその典型である。

さらに、当該ドライバはシステムを約2時間連続使用していたわけであるが、監視作業において一定の注意を維持することは難しく、30 分を超えると見落としが増えることも知られている。

第二にレベル2システムでは先行車を検知する能力を備えているが、これが車両以外の物体をどこまで検知可能であるかを一般ユーザが理解することは難しい。

日常走行において,確実に先行車を捕捉できている体験を繰り返していると、ユーザはこのシステムが前方の如何なる障害物をも検知できるシステムと単純化して理解しがちである。
そのために,路上の落下物を検知できると思っていた可能性がある。

第三に先行車の車線変更後に80 km/hで走行していた当該車両は設定車速である120km/hまで急加速を行った。
落下物に対して減速すると期待していたドライバにとって、この急加速は予想外のものであった。
人間は予想外の強い刺激を受けると,反射的に身体を縮こめる動作すなわち驚愕反射が起きる。
このために、障害物回避のためのハンドル操作は急なものとなり、車両のコントロールが失われたものと考えられる。

【鑑定人役の意見 その2】
(2)鑑定人2(人間工学専門家):教育の重要性
自動運転・運転支援システム利用中の運転介入に関する知識を、ドライバに適切に提供することが重要である。
運転自動化レベルによって異なるドライバーの為すべきこと(タスク)は、一般ユーザーには十分には理解されていない。

レベル2 システムでは、一般的に機能や性能に限界があり、その限界においてはドライバーが(システムからの通知の有無によらず)適切な対処をしなければならないことを理解させる必要がある。

さらに実際に利用するシステムが、どういう場面で障害物を見落とす、あるいは見誤るのか、その時にドライバがどのような対応をしなければならないのかを、代表的な事例を通じて情報提供し、理解を得ることが重要である。また机上での情報提供だけでなく、シミュレータなどでの体験をしておくことが望ましい。

本件メーカーに関しては、運転「支援」に関わるユーザの誤解を防ぐ努力をどれだけ行っていたか疑問である。

「困った時にこそ助けてくれるのが支援」との期待をしているドライバがいるのは事実であり,その期待に基づく誤解を防ぐための努力をするべきであった。

またAuDSは、「車両以外の物体には反応しない」が,衝突被害軽減ブレーキは「歩行者との衝突回避を支援する」と説明しており、ユーザの混乱と誤解を招きかねない。

加えて車両以外の物体には反応しないことに対して,ドライバがどう対処すべきかについての説明がないことも問題である。

一方販売店においては,重要事項についての資料提示だけで口頭説明を行っていない点を指摘しておきたい。

システムの機能や性能の限界について,説明されるべき重要事項は多岐にわたる。

資料に一通り目を通すという程度では,その内容を適切に理解できるとはかぎらない。

したがって、

「資料を渡して,その内容に同意する署名を得る」

というだけでは、システムの安全な利用を確保することにはつながらない。

【メーカー役の主張】
原告は、製造物責任法に基づく損害賠償請求の根拠として、

①「設計上の欠陥」
②「指示・警告上の欠陥」

を主張しているが、いずれも理由がない。

①につき、本件自動車は、「運転自動化レベル2」の車両で、運転者の責任で車両を制御することを前提として製作されており、搭載されているシステムは運転者の運転行動を補佐する「運転支援システム」としての安全性が確保されていた。

AuDS は、車線内を設定速度で走行しつつ、前方車両が存在する場合には車間距離を維持するなどして、運転者の運転行動を支援する機能である。

「先行車両が車線変更を行ったことを契機に、先行車両がいないと認識し、設定された速度(120 km)まで加速した」

との挙動は,正常な挙動であり、本件事故原因は、

「運転者が,進路上に障害物を発見したため、あわててブレーキを踏みながらハンドルを切ったところ、車両は安定性を失い制御不能となった」

など、運転者の安全運転義務違反による。

また、AuDS 作動時における通常人の覚醒度の低下等を踏まえた安全防止策の設計がなされていない旨の主張については、覚醒装置の設置は法令で義務付けられておらず瑕疵ではない。

運転者は覚醒度の低下を認識した場合、直ちに休憩するなど覚醒度を一定に保つ義務があったのに、これを怠ったものである。

②につき、メーカーは、各機能の機能限界について一般消費者が機能に関する誤解をしないよう、十分な広報活動を行うとともに、積極的かつ網羅的に取扱説明書に記載するとともに、起動の都度ディスプレーに表示し、運転手に対して注意喚起している。

したがって、本件システムが運転支援システムであり、システムの機能限界時、運転者の責任で適切な対処をしなければならない義務があることを認識しているはずである。

以上のとおり、原告は、用法上の危険を具体的に知り、危険な用法を実際に避けることができたものであり、メーカーには「指示・警告上の欠陥」は存在しない。

>「先行車両が車線変更を行ったことを契機に、先行車両がいないと認識し、設定された速度(120 km)まで加速した」

これは一般的な”アダプティブクルーズコントロール”の挙動ではありますね。

東名高速の事故やマウンテンビューでも事故も同じように人や壁に向かって加速していきました…

ドライバーはこの挙動を不具合として主張していますが、メーカーは正常な動作と主張しています。

【販売店役の主張】

原告の請求根拠①欠陥ある本件自動車の販売については、適式な型式認証を受けた車両であり、人間工学の観点から問題があるならば、型式認証に問題があること、取扱説明書も、メーカーから提供を受けたもので、それ以上の説明を独自に行う端緒もないことから販売店に責任はない。

また、原告の根拠②本件自動車の取扱いに関する説明義務違反については、説明義務はあるが、マスコミ報道による誤解を防ぐ義務はない。

そのような義務を販売店に負わせることは過度な消費者保護であり、消費者に機能を理解する努力を放棄させるものである。

被告は,原告に対し当該機能の一般的な説明を記載した重要事項説明書を手渡し、署名を得た以上、口頭の説明がなくとも説明義務を果たした。

販売後、原告から説明も求められていない。

通常の覚醒度で運転していれば生じない車体の挙動は、不合理な挙動ではなく、説明義務を負う事項ではない。

運転「支援」システムであると明示し、運転主体が人間であることは通常人ならば理解可能であることから、被告に責任はない。

【判決】

主文:被告らは,原告に対し,金1600万円を支払え。原告のその余の請求を棄却する。

理由:争点① 製造物責任法上の「欠陥」の有無について

・本件自動車は道路運送車両法上の保安基準は充足している。

また、本件自動車の装置は国・業界団体が定める性能ガイドラインに抵触するところはなく、標準的な水準に達している。
それゆえ、「欠陥」は認められない。

・運転中の覚醒度低下は、経験上・人間工学上明らかな現象である。

しかし、レベル2 における運転主体はあくまで人間であり、安全運転義務が軽減されるわけではない。

我が国及び諸外国における趨勢としては、運転者の挙動を監視し警告等を行うシステムの必要性が高まっているものの、将来的な対応を念頭に置いたものである。

理由:争点② 販売時における説明義務の有無について

・レベル2の運転支援システムが有する機能・性能及びその限界は千差万別であり、運転者が全てを理解し、対応することは困難である。

しかし、典型的・代表的な事例については運転者に予め注意・説明ないしは体験させることにより対処可能性を上昇させることが出来る。

・レベル2はあくまで運転主体は人間であり、装置等は運転支援をするに過ぎないものであったとしても、その挙動等については運転者の従前の経験上の認識とは大きく異なるものもある。

単に取扱説明書及び重要事項説明書を交付し、運転者側における読解,対応に主として委ねたのみでは、製造物責任法上の指示・警告上の欠陥(メーカー)及び説明義務違反(販売店)が認められる。

理由:争点③ 責任割合(過失相殺)について
・レベル2 における運転主体はあくまで運転者である本件自動車のAuDS が作動しており、ハンドル等の運転操作をする必要がなかったとしても、安全運転義務に変わりはない。

・本件では原告に眠気が生じていた可能性が認められる。
しかし、覚醒度や注意力の低下が経験上・人間工学上認められるとしても、そのような低下をしたことについて直ちにその回避のための装置が無いことが本件自動車の欠陥になるものではなく(争点①で判断済み)、運転者に課される注意義務の軽減が認められるものでは無い。

運転者が前方を注視していたのであれば、前車進路変更後に道路上に存在した障害物を視認することが可能であった。

よって、本件事故の発生により原告が受傷し、壺が損壊したことに対して、主たる責任を負うのは原告である。

・他方、既に認定したとおり、被告の責任もまた認められるところである。
被告の説明に問題があったことにより原告の認識に影響を与え、本件事故が発生するに当たって寄与したことの重大さもまた見逃すことはできない。

以上を勘案し、責任割合は、原告:被告ら= 6:4 と考えるのが相当である。

【今後に向けた提言】
今回の模擬裁判の焦点は、レベル2 システムを利用するうえでの「人の能力限界」を公知としたときに、それが判決にどのような影響を及ぼすのかということであった。

判決結果は、メーカーのシステム設計上の問題は認められず、メーカーと販売店の説明不足に対する責任の一部のみ認められた。

また「運転主体はあくまでドライバーにある」というレベル2システムの定義は、判決においても有効であった。

模擬裁判での議論や判決を受けて、今後同様の事故を起こさせないために、当委員会としての提言を以下に述べる。

【業界への提言】
・ アカデミアと連携し、人の能力限界を調査・定義し、業界で共有すること。

・ 国交省と連携してレベル2 に関するガイドラインを整備すること。
ガイドラインは人の能力限界が引き起こしうるリスク(予見可能なリスク)に対して、それを軽減するための設計指針
を含むこと。

・メーカーおよび販売会社は、ユーザーに提供すべき情報の内容や提供方法を、業界内で標準化すること。
情報内容については、システムの機能説明だけでなく、機能限界、ドライバが果たすべき役割、予見可能なミスユースをなるべく具体的にユーザに伝えること。

【メーカーへの提言】
・ユーザの誤解を招くようなシステム名称を避けること。

・ドライバーモニタリングシステムをはじめ、予見可能なミスユースを回避または補償する機能をシステムに付与する努力を続けること。

【販売店/販売会社に対する提言】
・実機を使った説明や動画(簡易シミュレータなどを含む)を使った説明など、個々のユーザーの理解を深めるための工夫をすること。

・重要事項説明書への署名は、提供した情報に対するユーザーの理解度を確認するためのツールとして使用すること。

【ユーザー/潜在ユーザーへの提言】
・ユーザはメーカー販売店が提供する情報をしっかりと理解する努力をすること。

・ 購入後もシステムの理解、特にシステムの機能限界を理解する努力を続けること。

結論 【レベル2でも製造元や販売店が責任を問われる可能性がある】

これまでの裁判記録を見る限り、

レベル2の運転支援システムにおいて企業側の責任が問われる場合、主な争点となるのは以下の3点です

1.車両の設計・製造上に問題がなかったか
・危険な状況(例:前方の障害物、急な車線変更など)に対して、システムが適切に反応する設計になっていたか。
・システムの挙動が「想定された限界内」か、それとも「設計上の欠陥」と見なされるか。

2.利用者への説明が適切だったか
・購入時や試乗時に、システムの限界や注意点について十分な説明が行われたか。
・マニュアルや重要事項説明書への記載だけでなく、口頭での補足や誤解を防ぐ配慮があったかどうか。

3.運転者の過失との因果関係
・ドライバーが警告を無視したり、眠気を我慢して運転を続けていたなどの明確な過失があった場合、その過失が事故にどの程度影響したか。
・企業側の説明不足や設計ミスが、ドライバーの誤信行動を誘発したといえるか。

以上を踏まえて、自動運転レベル2でも企業が責任を取る可能性があるのかというと、

事故の被害者がメーカーや販売店を訴えた場合、責任を負う可能性がある。

というコトでしょうか?

争点としては、ドライバーに対して説明責任を果たしていたかどうか。

「同意書にサインをもらった」
「オーナーズマニュアルに記載していた」

くらいでは裁判になった時、充分に説明したと判断されない可能性がある。
(とはいえ過失割合としてはドライバー側の方が大きい)

一方、ADASの機能限界を争点にした場合は責任の追及は無さそうです。

具体的には
「道路上の車両や人を検知できずに衝突した」
「居眠りを検出できない」

といった内容では責任の追及は難しそうです。

今回は以上です、今回は以上です、ここまで読んでいただきありがとうございました。

<参考資料>

List of Tesla Autopilot crashes
https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Tesla_Autopilot_crashes

具体的事故事例分析を通じた自動運転車の交通事故に関する刑事責任の研究② ~運転支援車(レベル2) の事故~
https://chukyo-u.repo.nii.ac.jp/records/18414

テスラ社の自動運転車で初の「交通事故」 夫を奪われた妻の悲痛な叫びhttps://www.dailyshincho.jp/article/2019/07220800

「テスラの車でなかったら、夫は死なずに済んだかもしれない」 自動運転車の暴走リスク
https://www.dailyshincho.jp/article/2019/07230800/

■■■■■ v. Tesla Inc. (5:20-cv-02926)
https://www.courtlistener.com/docket/17109047/umeda-v-tesla-inc

テスラ車の死亡事故、運転支援システムにも一因 米当局が結論
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56062240W0A220C2TJ2000

An Update on Last Week’s Accident(ウェブアーカイブ)
https://web.archive.org/web/20180331020104/https://www.tesla.com/blog/update-last-week%E2%80%99s-accident

Deadly crash involving Tesla on Hwy 101 in Mountain View(ウェブアーカイブ)
https://web.archive.org/web/20180402113034/http://www.kron4.com/news/bay-area/crash-involving-tesla-on-hwy-101-in-mountain-view/1073989066

Tesla settles with Apple engineer’s family who said Autopilot caused fatal Bay Area crash
https://abc7chicago.com/tesla-settles-with-apple-engineer-walter-huangs-family-who-said-autopilot-caused-fatal-mountain-view-crash/14635870/

Tesla says crashed vehicle had been on autopilot prior to accident
https://www.reuters.com/article/us-tesla-crash/tesla-says-crashed-vehicle-had-been-on-autopilot-prior-to-accident-idUSKBN1H7023/

Tesla Autopilot confuses markings toward barrier in recreation of fatal Model X crash at exact same location
https://electrek.co/2018/04/03/tesla-autopilot-crash-barrier-markings-fatal-model-x-accident/

Tesla says Autopilot was active during fatal crash in Mountain View
https://arstechnica.com/cars/2018/03/tesla-says-autopilot-was-active-during-fatal-crash-in-mountain-view/

EXCLUSIVE: I-Team investigates why CalTrans didn’t fix safety barrier before Tesla driver died there
https://abc7news.com/dan-noyes-tesla-crash-iteam-barrier-battery-safety/3280399/

I-TEAM EXCLUSIVE: Victim who died in Tesla crash had complained about Autopilot
https://abc7news.com/dan-noyes-tesla-crash-iteam-barrier-battery-safety/3275600/

Elon Musk hits back at NTSB’s critique of Tesla releasing data of fatal Autopilot accident
https://electrek.co/2018/04/02/elon-musk-ntsb-tesla-autopilot-crash-data-fatal-accident/

PRELIMINARY REPORT HIGHWAY HWY18FH011(ウェブアーカイブ)
https://web.archive.org/web/20190515141958/https://www.ntsb.gov/investigations/AccidentReports/Reports/HWY18FH011-preliminary.pdf

HWY18FH011-TeslaPartyRemovalNotifica
https://www.ntsb.gov/investigations/Documents/HWY18FH011-TeslaPartyRemovalNotificationLetter-041218.pdf

Complaint ■■■■■ v Tesla State of Calif 20190430.pdf
https://dig.abclocal.go.com/kgo/PDF/Complaint-Huang-v-Tesla-State-of-Calif-20190430.pdf

Tesla settles lawsuit over Autopilot crash that killed Apple engineer
https://www.cnbc.com/2024/04/08/tesla-settles-wrongful-death-lawsuit-over-fatal-2018-autopilot-crash.html

自動ブレーキ作動せず事故 日産販売店長ら書類送検 千葉県警、全国初https://www.chibanippo.co.jp/news/national/401244

セレナの試乗車で追突事故を起こした日産プリンス千葉販売に聞いた。
https://mag-x.jp/2017/04/18/6126/

「自動運転HMI委員会」 レベル2運転自動化システムの仮想事故に対する模擬裁判の実施報告
https://www.jsae.or.jp/files_publish/page/1014/%E3%80%8C%E8%87%AA%E5%8B%95%E9%81%8B%E8%BB%A2HMI%20%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A%E3%80%8D%E3%80%80%E3%83%AC%E3%83%99%E3%83%AB2%20%E9%81%8B%E8%BB%A2%E8%87%AA%E5%8B%95%E5%8C%96%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0%E3%81%AE%E4%BB%AE%E6%83%B3%E4%BA%8B%E6%95%85%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E6%A8%A1%E6%93%AC%E8%A3%81%E5%88%A4%E3%81%AE%E5%AE%9F%E6%96%BD%E5%A0%B1%E5%91%8A.pdf

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